久しぶりに美術展へ行った。Bunkamuraで開催している国立トレチャコフ美術館展だ。今年は3月に庭園美術館でポワレとフォルチュニィ展を見たきりなので、2本目ということになるのか。ペースとしてはちょっと少ないかも。

 トレチャコフ美術館展で一番の目玉は、なんといってもこの絵画だ。


 イワン・クラムスコイの描いた「忘れえぬ女」。何度見てもきれい。絵葉書いっぱい買っちゃった。

 この絵を最初に見たのは小学生のときだ。ロシア美術館名作展という展覧会があって、「第九の怒濤」と一緒にご来日。私は母親に連れられて会場に行き、この絵に出会ったのをよく覚えている。あの時の「忘れえぬ女」はもっと大きくて、壁の高いところにかかっていて、私のことを見下ろしていた。

 それからうん十年経って再会したら、彼女のまなざしは少しも変わらなくて、容貌は20代のまま。私はずいぶんと年を重ねてしまった。絵は記憶よりいくらか小さくて、今回の彼女は私と目線が並行だった。それで絵の前に置いてあったソファに腰掛けたら、だいぶ小学生時代の目線に近づいたみたいで、彼女が見下ろしてくれた。なんだか懐かしい。

 あと何年生きるのかはわからないけど、「忘れえぬ女」にもう一度出会う機会はあるのかな。その時はどんな風に感じるのだろう。絵の前に立って、時間のざわざわと流れていく音が聞こえてくる。